12時に起きる
バレエの授業がある。灰色の薄手のタートルネックと灰色のジャージのズボンを履いていたので、着替えるか迷うが、時間がないのでそのまま出る。
授業に移動中の先輩のAさんが目に入る。Aさんはまるで魚のように泳ぐのだろうな、と思う。
彼女は眉目秀麗で勉強もスポーツもとびきりできるのだが、その性格のキツさで悪い評判が立っている。なにもかもよくできるのに学校を二留しているのも、みんなにとっては気持ちが悪いらしい。
授業はバレエではなくスイカ割りをする。目隠しをして、折り畳み傘の柄を伸ばしたもので、大きなパンの中身をくりぬいたものを叩く。わたしたちには小さな棒が一本ずつ配られている、これが終わったらパンを小さくちぎって、火で炙って食べるのだろう。
目隠しをしてから回転するのか迷っていたが、どうやらしなくていいらしい。あっという間にわたしの番がくる。ここからまっすぐ三歩。先輩が見てくれているかもしれない。剣道のように美しく構えて、傘を振り下ろす。地面を叩く音。左に数センチずれていた。惜しかったね、というような先生の顔。わたしはいつも水曜日にバレエの授業を受けるのだが、今日は普段受けている女の先生でなく、臨時で体格のよく日に焼けた男の先生が担当している。授業が終わると彼は小さな黒板に、これからは週に四日、ヒップホップと韓国のダンスを教えると説明する。彼が踊っている様子を想像する。
学校の帰り、四条大橋でクラスメイトたちと出会う。先輩の悪口を言っている。「あの人は自分で洗濯をすることもないのだろう」と彼女を貶している。先輩は高橋たか子の誘惑者の主人公に似ている。そして彼女はそのようなことをしないという描写がある。*1わたしは先輩にそれが本当か訊きたいと思う。
どこからか先輩が現れる。わたしは緊張しながら、「先輩は洗濯をしますか?」と訊ねる。
彼女は何も言わず、怪訝そうな顔をして去っていく。
家に帰ってしばらくすると、先輩からLINEがきている。一度も連絡を取ったことがないので、友達追加するか通報をするかという画面が出る。友達追加をする。先輩はどうやってわたしのLINEのアドレスを知ったのだろう。
「私は下着はワコールを使っているよ。さらちゃんにこんな話をするのはごめんね」というような二行の文面。かわいらしい絵文字が使われている。先輩のイメージとはまったく違う。
でもわたしが先輩に訊きたかったのは、先輩が普段、洗濯のような生活じみたことをするか否かなのだ。これは、下着はワコールが出している洗剤で洗っているということなのだろうか、と考える。わたしはお礼と、なぜ突然このような質問をしたのかという説明を書こうとするが、うまくいかない。
*1:実際にはそのような描写はない