夢日記

夢がないのにユメちゃん、未来がないのにミラちゃん

雪原まりもさんにサインをしてもらう

これは夢じゃなく現実で、わたしは九月十四日に京都に行って、まりもさんにサインをしてもらう。

会誌の中の「え・と・ら・ん・じぇ」という小説。誇張ではなくわたしはもう百回は読んでいて、京都に向かう新幹線で百一回目を読む。
持参した油性ペンを渡して、小説の最後のページに一息で雪原まりもと書いてもらう。サインを書くのは初めて、いや、二度目か、などと言いながらあまりにも美しい崩し字を書いたのでおどろく。彼のことはどこまでが本当でどこまでがお話かわからない。それを嫌らしくなくやっているのがまりもさんの美点なのだと思うし、サインだってあのような謙虚な素振りをして実は三千枚くらい書いているのかもしれない。それくらい、みだれのない美しい字だった。

わたしは彼と自分の顔のほくろの位置がまったく鏡合わせであることに気づく。目の下と唇の下に、両方あるのはめずらしくありませんか? まりもさんとわたしは向かい合っていると、鏡を見つめているみたいにもなるんですね。うれしくなる。そんなはずなはい。まりもさんは天使で、わたしはただの肉塊であるのに。

その会誌にはわたしも短歌をいくつか載せた。最後の歌は「二番目のおんなになるね偽物の毛皮もからだをあたためること」というものだった。下卑た歌。それを見たYくんが、スピッツが『フェイクファー』というアルバムを出しているよ、と教えてくれる。Apple Musicを開いてもらうと、アルバムの一曲目が「エトランゼ」で最後の曲が「フェイクファー」で。

ああ、奇跡じゃなくて、こんなにもよくできた現実が、あんなにも高みにあったものがここまで降りてきてくれた、めまいがする、心臓がどきどきする、好きです、好きです、でも届かないと知っている。この近さは今この瞬間に消えてしまうものだって知っている、知った瞬間だけすれ違えた、隣に並べなくていい、そんなの畏れ多い、わたしは人生で誰のファンにもなったことがないと豪語していたけれどうそです、わたし一作目の小説を読んだその日から、ずっとずっと雪原まりもさんのファンです。