夢日記

夢がないのにユメちゃん、未来がないのにミラちゃん

6月25日 ノルウェイの森の夢

映画版ノルウェイの森を観ていると、直子が川を歩くシーンがある。すぐに鴨川ではないと思う。美しい川だ。そこで直子は女の子を見る。彼女は「まだ三人で仲良くできるよ」と言う。その後、女の子は消える(荒いCGだ)直子はその後、川に浸かった女の子と汚いおじさんを見る。ぐったりしているので死んでいるのかと怯えるが、彼女はいたずらされている。直子は見ないふりをして歩いていく。

小説

シャーリー2号  阿部さら


「寿は長生きという意味、栄は草花が盛んに茂るという意味で、元気にすくすく育ってほしいから、わたしの名前は寿栄子です」
これは、小学二年生のかわいく健気なすえこちゃんが、一晩徹夜してでっち上げた大嘘です。
時代錯誤も甚だしいわたしの名前の本当の由来。それは、母親の「これ以上子供は産みたくない」という決意が“読み”に、父親の「経営している寿司屋が繁盛してほしい」という願いが“漢字”に込められた、それはそれは身勝手なものでありました。
名前とは祈りです。そして祈りとはしつこく繰り返す力です。ひゃくまん・せんまん・いちおくと同じ言葉を言ったり言われたりすることで、祈りは真実になるのです。すえこ。寿栄子。この、あまりにもわたしへの祈りが欠落した、父親と母親の交差しない欲望の結晶。この、しょうもない名前を一生呼ばれ続けるのが、わたしの人生だと気づいたとき、幼いわたしは生まれて初めて、死を願いました。

今度こそ、今度こそ男だろう、と期待をかけられたにも関わらず、わたしは五人姉妹の末っ子として生まれました。
父は酒を飲むたび、しょうもない女腹だと母を罵倒し、殴り、蹴りました。頭から血を流し、全身痣だらけになってもそれでも母は、父の怒りの矛先が五人の娘の誰かに向かいそうになると、わたしたちの前に立ち、両腕を広げて人間の盾となり、父からの暴力を一身に受けました。おかげでわたしたちが父から手を上げられたことは一度もありませんでした。

そんな厳しい環境でたくましく育った四人の姉たちは、いかにすれば父に可愛がられるかを熟知していましたが、末のわたしに限っては、父を前にするとがたがたと震えが始まり、一言も口が聞けなくなってしまうのでした。自分に懐かないわたしを、父はあからさまに邪険に扱いましたが、それでも母は「すえちゃんはみんなの中でいちばんかしこいお顔をしている」「ないしょのおはなしよ?」と耳打ちしては、そっとわたしの頬を撫でてくれました。

あれはいつだかの冬、寝付けぬわたしはお小水に行こうと、子供部屋を抜けて階段を降り、お便所へと向かっていました。
すると、一階の廊下に面した居間から、父が「すえこ、すえこ」と、しきりに口にしているのが漏れ聞こえてきました。わたしはどきりとして立ち止まり、細く空いていた襖の隙間からそっと中を覗きこみました。
「寿栄子はなんだ、あの可愛げのない穀潰しの出来損ないが」
襖の向こうで父はお酒を飲みながら、母に愚痴をこぼしていました。そして、普段なら父の罵りをやんわりと諭しては暴力を受けている母は、眉を下げて、媚びるように唇をすぼめ、相槌を打ちながら父に寄り添っておりました。
それを見た瞬間、わたしはへたへたと崩れ落ちてしまいました。板張りの床にたちまち広がる、匂い立つぬるい水溜り。それを静かに泣きながら、お下がりのパジャマの長すぎる裾で拭っているとき、幼いわたしは再び、自らの死を強く強く願いました。

母を殴り、わたしを抱きしめるのを拒むあの手で、どうして美味しい寿司が握れるのか。父は人間のクズでしたが、父が大将を務める寿司屋は、なぜだかそこそこの人気がありました。
――口に入れた瞬間ほどける シャリとマグロのマリアージュ―― などと言った恥ずかしい煽り文句で、店はちょっとした雑誌やテレビ番組に取り上げられ、客足が途絶えることはありませんでした。
けれども、「女の寿司はまずい」が口癖の父は、わたしたちの中から跡取りを育てる気はありませんでした。「弟子にしてください」という申し出を受け、若い男性が数人、住み込みで働いていたこともありましたが、父の酷い罵声に耐えられず、誰もが一月も持たず逃げ出していく始末でした。

とにかくここから出て行きたい。
時が経てば経つほど、母親似の姉たちは華やかに女らしくなりましたが、わたしの父に似たエラ張りや細い目やひしゃげた鼻は、幼いときよりも明確になっていきました。
父はそんなわたしにゴミを見るような目を向けて、「毎日机に張り付いて気味が悪い」「器量が悪いんだから口紅のひとつでも塗れ」と喚き散らしました。
しかし、わたしは父の言葉を無視して、寝る間も惜しんで勉強を続けました。念願の京都の某大学の工学部機械工学科に合格し、地元を離れたわたしは、卒業後、とある食品機械会社に就職し、エンジニアとして働くようになりました。

社内でわたしが開発・設計に携わった、お寿司のシャリを握るロボット「シャーリー」は爆発的な大ヒットを起こしました。
直径435㎜、高さ380㎜の円筒型、一時間に最大1900個のシャリを生産できるシャーリーは、いかにもロボット然とした従来品とは違い、木桶の形を模し、本体表面には木目があしらわれているため、カウンターの内側に置いてもお店の雰囲気を損ねることはありません。また、シャーリーがぽこぽこ生み出すシャリの温度と硬さは、熟練の職人が握ったそれとほとんど違いがありませんでした。
もはや人間が寿司を握る必要はないと、全国の回転寿司店はこぞってシャーリーを採用しました。ごちそうの代名詞であったお寿司はあっという間にファーストフード化し、機械に寿司が握れるわけがない、とシャーリーを鼻で笑っていた回らないお寿司屋さんはどこもかしこも、みな廃業に追い込まれました。
風の噂によると、わたしの実家の寿司屋はあっさり潰れ、子育てが終わった母親は父親を見捨てて、家を出て行ってしまったそうです。しかし、そんな家庭の細々した悲劇など、わたしにとってはどうでもよいことです。

シャーリーの普及に伴い、銀行口座には信じられないほどの大金が定期的に振り込まれるようになりましたが、わたしは変わらず質素な暮らしを続けました。高価な靴も鞄も洋服も化粧品も、わたしにはさして魅力的に感じられなかったのです。
どんなに足掻いても、若さはいずれ失われます。美しい容貌はもちろん、磨き上げた技術や高尚な知識すらも、ゆっくりとしかし着実に、老いに侵食されていくのです。老いの末にやってくるものは死です。人は死んだら燃やされて、かすかすの灰になるのです。老いに抗えぬ人間が高価できらびやかなモノを身につけても、ただただ虚しいだけではないでしょうか。

付け焼き刃の美しさなどいらない。
わたしが望むものは、永遠の体。永遠の美しさ。永遠の愛。

仕事を辞めたわたしは、半年ほど前に倒産した小さな製作所を買い取りました。夜逃げも同然で潰れたそこには、営業当時に使われていた機械が、ほぼそのままの形で残されておりました。わたしは借りていたマンションを解約してそこに住み込み、全財産を費やして、誰のためでもない、わたしだけのためのロボットを作りました。
切れ長の瞳、もつれるほど長く繊細な睫毛、鷲鼻がかった高い鼻、小鳥のような唇、薔薇色の頬、漆黒の髪、そして、蠟のように滑らかで白く長い指。
これこそがわたしの理想。チタン合金を限りなく肌の質感に近いシリコンで包んだ、人型シャリ握りロボット、シャーリー2号が完成しました。
わたしは眠っているシャーリー2号の空っぽの腹に酢飯を詰め込み、寿司職人風の白い調理衣を着せ、髪を束ね、鉢巻を結い、下駄を履かせました。服の上からでも分かる、少しでっぱったシャーリー2号のお臍を押すと、シャーリー2号はゆっくりと瞼を開き、上体を起こし、小さな唇を動かしました。

「へい、らっしゃい」
「はじめまして、シャーリー2号。わたしの名前はスエコです」
「スエコさん、なにから握りましょうか」
「コハダがいい。でも、その前に、わたしを抱きしめてもらえますか」

シャーリー2号は、しばし考えるかのように静止しましたが、躊躇いなく腕をこちらに伸ばします。シャーリー2号の手は寿司職人の手にふさわしく、ひんやりとしていて、人間のそれよりもよっぽど心地よい。
わたしは完全無欠の愛しい機械の腕の中で、うっとりと目を閉じるのでした。

ナツミの夢

わたしはクラス中からいじめられている。
国語の時間の音読中、ついに教室で怒るも、主犯格のナツミは屋上に逃げている。
見て見ぬふりをしていた教育実習の先生と取っ組み合いになる。髪を掴んで頭をコンクリートの床にガンガンぶつけていると、動かなくなる、少年院に行くことになると思う。
屋上に向かうとナツミがいる。ナツミの他にも授業をサボる男の子がいる。彼はナツミにここから飛ぼうと提案する、わたしはそれを止めるが、ナツミは男の子がフェンスを乗り越えるのを手伝い、二人で飛び降りる。落ちた先は25メートルプールで、二人は息継ぎもせず泳いでゆく。
どこからともなく、もう一人男の子が現れる、僕たちも飛ぼうとわたしに提案するが、あの人たちは思い切りが良いからプールに落ちるのだ、我々は手前の地面に落ちるに決まっていると言って断る。代わりに、わたしと彼はフェンスの前でキスをする。

2017年 7月の夢たち

今日は、サイゼリア飲み会に行く約束をしてたんだけど、ふと左後ろの髪を掴むと、縮れた白髪がごっそり束で抜けて「ごめん、髪が抜けたから行けないわ」ってその束を見せて断る夢を見た。

7月10日

恋人が生きていて会う夢を見た。自殺未遂をして死んだと思ったら生きていた。背が伸びていた。勧められるがままにリバーシブルのスカートを試着した。就職についてのメールを返していた。古本を見に行った。

7月16日

いい夢見た!わたしは、淡いガールズラブがテーマの学園モノ映画の凖主演で、いじめる女を殴り殺して、ジュディマリが爆音でかかるラスト、走ってくる仲間の青い車に、好きあってる女の子と二人で飛び乗るのだ(車の中では「撮影終わったよ〜楽しかったよ〜さみしいよ〜」と泣く)

7月27日

気分が悪くなり階段の踊り場のようなところで倒れていたら、とてつもなく大きな燐寸箱を持ったKくんが現れる。お金をくれたら助けてあげます、と言うので、彼に燐寸を一本擦ってもらうたび、百円玉を渡す。燐寸からは芍薬のような匂いがして、その煙を吸っているうちは具合がよい、という夢

7月30日

キチガイだから実のおじいちゃんと結婚しないといけない夢

悪夢をみるときの二割くらいは、何かの撮影だって設定。

わたしはキチガイだから実のおじいちゃんと結婚しないといけなくて、歯が一本ない。
お金についての電話をしている他人の部屋の花瓶に挿された枯れかけた薔薇、わたしは青いチューリュプの束を持ちバレエのアラベスクをする。(足がちゃんと伸びない)

ガンで余命が四、五年のバリキャリの女と、土手を歩きながらとんでもなく言い争う。(「私はやりたいことがたくさんあるのにあと数年で死ぬ、形式的な結婚がなんだ」「わたしはキチガイだからという理由だけで実の祖父と結婚させられるんだぞ、死ぬのが何だ、わたしはいつだって死にたいわ」)
わたしは前へ進みながら、彼女を噛んだり殴ったりする。彼女は足首に癌があり目視できる。皮膚は弱っていて、すぐ打撲痕や噛み痕ができる。

最中、コンビニの駐車場から他人の叫び声が聞こえる。近寄ると、わたしのおじいちゃんが、血まみれになっている。自力で歯を抜いて、わたしにくれようとして、手を差し出しながらにこにこしている。

恋人に首を絞められかける夢

恋人は生きている。二人で夜、一緒にいる。
彼は日付が変わり、9月26日になったことを怯えている。
わたしは「どうして怖いの?」と訊くが、風邪を引いたのか空調のせいか、声が掠れてほとんど出ない。
しばらく躊躇した後、恋人は、「昔、隣の家の女の子と付き合っていた、その後は町田に住む女と」と話し始める。話が分からず、「それで?」とかさかさした小さな声で続きを訊ねると、恋人は逆上し、わたしの首を絞めようとする。
恐ろしくなったわたしは叫び声を上げる。
すると、恋人はわたしから離れ「声、でるじゃん」と冷ややかに言う。

豚が豚を屠殺する夢

ドキュメンタリーを撮影している。
豚の群れがカメラに向かって走ってくる。一匹の遅れている桃色の子豚にクローズアップ、生まれつき片脚が悪いようだ。
毛の白い少し大きな豚が、桃色の小豚をどこかへ連れていく。そこは飼育場にある小さな囲いの中だ。
囲いの中には円盤が設置されていて、その一部分には刃がついている。
「子豚はここまではついてきましたが、さすがに刃の下に首を置くのは嫌がります」という、ナレーション。
しかし白い豚によって桃色の豚は刃の下に固定される。
白い豚が両手を使って、円盤についている取っ手をくるくる回すと、だんだんと刃は桃色の豚の首に食い込み、ついに首が落ちる。透明の汁が飛び散り、わたしにもかかる。
「豚たちは長い間、人間の屠殺を見続けてきたので、自分達でも行うことができるようになりました」という、ナレーション。